月曜日, 10月 09, 2006

「なぜADHDのある人が成功するのか」を読む。

日本語で読める、成人AD/HDの仕事の進め方の本。仕事に重点を置いている和書としては本邦初ではなかろうか。
監修が田中康雄先生で、訳が海輪由香子さんということで、安心感をもって期待して購入。

読みやすく、示唆に富み、明日から使えるのに、深く考えさせられる内容となっている。

しかし、一回目の読了までの間は、AD/HDに関する新手のトンデモ本ではないかと思ってしまう違和感も感じた。原著者の「狩猟民・農耕民」の要約が相当な言い切り型になっているからである。他の多くの書で「AD/HD=狩猟型」の類型化をみかけるが、これは完全には検証されていない仮説の段階に過ぎないのではないか。昨年のCHADDで、引用されているNIH, UC Irvineの論文のプロジェクトについて、 Swanson教授自身がキーノートで講演していたのを聞いたが、さらに追試・大規模な調査をおこなっていると述べていた。AD/HDの日本における権威者が監修する書籍での言及であり、周辺の関係者で検証なく鵜呑みにされ、過度の決め付けになってしまわないか大変心配と感じた。

しかし、最後の「監修者あとがき」を読んで合点がいった。あとがきには「特に狩猟民と農耕民について」と副題がついており、まさにこの点に関する言及があった。原著者の仮説を、監修者自ら検証しなおしたと述べられている。推測するに、監修者もこの言い切りに関しては、まだ逡巡があるのではなかろうか。

この点を考慮して思い返し、「狩猟民・農耕民」を、その学術的に厳密な定義と真偽は別にして、AD/HDの形質をシンボライズするキーワードとして使う限りにおいては、大変便利な用語ではある。原著者が冒頭でも述べているとおり、「実践的な要約書」としてありがたく使わせてもらおう。

「なぜADHDのある人が成功するのか」